【第2回】初めに“社是”ありき

「当社の業績は『社是』のおかげです」という村田社長の言葉の意味はすぐに理解できない。「優秀な技術のおかげです」なら納得できるのだが。

ビッグサンズの社是−−。

「喜んでもらう喜び 己もよろこびたい」これが、どう社業に役立ったのか。

村田社長も社員研修会などで若い社員に社是の意味を聞く。「ふわっとした語源ですから、いいなあ、と思ってくれるんですが意味の方は…」と気になる。答えは「いい商品をつくる」とか「安くつくる」「普及率ゼロの商品をつくることです」などと返ってくる。

最後の「普及率ゼロの…」は村田社長の口ぐせでもある。他企業のまねをしない。自分たちにしかできないことをする。だから乗り出すのは普及率ゼロの分野である。ベンチャーの心意気を示す大切なことなのだが、これが社是の解釈にならない、という。

では、なになのか。

いい商品をつくる、などといったモノの差別化ではない。「いつでもだれにでもできることを実行しよう」ということだ。

だれにでもできること、とは。

「いつも笑顔で元気のある態度、というのもそのひとつです」。

朝は、おはようございます。

お客さまには、いらっしゃいませ。これはだれにでも、いますぐできる。

それを村田社長は実行してきた。そのことで小さな会社がここまで伸びてこられた、という願いが、社是に結晶した。

この社是の源になる言葉は親しい人々との座談の中で聞いた。ある高僧がふと口にした「無財の七施」(むざいのしちせ)というお釈迦様の言葉である。胸にこ つんと響くものがあった。金や権力がなくてもできる施しである。七つがあげられたが、村田社長は、例えばつぎの二つは実行できる、と思う。

顔施(がんせ)。いつも優しい眼をしている。笑っている。 言施(げんせ)。いつもありがとう、という。いずれも、実に人間的なことである。

創業のころ、結婚式のビデオ撮影を始めたことがある。おどろいたことに、金びょうぶの前では新郎新婦の顔が真っ青に写った。色温度の影響をうけたのだった。当時の技術では避けられなかった。

それを自然の肌色にするにはどうすればいいか。けんめいに研究し、器材を開発した。ここからカラーを補正するビデオカラーコレクターが生まれ、大メーカーにOEM供給することになった。ピンボケや手ぶれを修正するビデオエンハンサーもこのとき開発した。

問題がおきてお得意さまにかけつけるとき、村田社長が心がけ、社員にも徹底したのは、「人間第一」のこころがまえだった。「どの器具が故障したのですか」と言わず。「ご迷惑をおかけしたのはどなたでしょうか」と尋ねた。お得意さまは機械でなく人間である。

すべて社是の心である。社是がある限り、ビッグサンズは成長する。だから、「社是のおかげです」も村田社長も口癖である。

(村上順一郎)

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